命

小さくて無力な命
草むらでミャアーミャア泣いていた子猫を
拾ってきたのは君だった。
~ 高校を中退してしまった夏の日 ~
「あんなにダメ、と言ったのに」と私は強く叱ったが
君はもうその子猫を胸にしっかりと
抱きしめていた
「俺がそだてるよ」と。
深夜、「猫がダンスを踊るんだよ」と興奮気味に私の所へきた。
電灯の下に下がっている紐にじゃれて子猫がクルクルと廻っていた。
私が外から帰り、玄関のドアを開けると二階から下りて来てお座りして待っていた。
ふにゃんと大きな欠伸をして犬しか飼ったことのなかった私はそれからというもの
捨てられている子猫を見捨てることができなくなってしまった。
犬2匹を連れて歩いていても必死に追いかけてくる小さな子猫さえいた。
近所の人達から、「えらいわねー」とか「そのうちいいことがあるわよ」
等と煽てられた。
君は猫育てをしながら大検合格を果たし
新聞販売店で住み込みで働きながら予備校に通うという厳しい環境に自らをおいた。
真面目に大学へ通い、卒業したけれど望むような就職先がなく、
アルバイトにいった先で真面目に真面目に働いた。
認められ正社員になって間もなく、
張りつめた糸がぷつんと切れたように君は会社に行けなくなってしまった。
抜け殻のようになり、家の中に閉じこもってしまって1年
何も言わず 君は遠い世界へ旅だって行ってしまった。
あの日、朝食を一緒に食べていた時の君は
それまでになく、とてもすっきりした顔をして
「お母さん、大丈夫だよ」と言っているようだった。
もう14年が経ちました。
君の命日がくると
梅雨入りになるのです。
グリーフケア・サポートプラザのホームページ
http://www12.ocn.ne.jp/~griefcsp/index.html

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