第42回クレマチスの会
テーマ 日本人の死生観からみた自殺予防
日時 2015年4月12日(日)午後2時~
場所 当会事務局
講師 サイコセラピー研究所 いいもりこころの診療所院長、東京医科大学名誉教授
飯森眞喜雄氏
〈講師プロフィール〉
精神科医。東京医科大学医学部卒業、東京医科大学精神医学講座主任教授(1999年~2014年)、東京医科大学副学長兼任(2009年~2014年)。現在、東京医科大学名誉教授、東京医科大学理事、サイコセラピー研究所・いいもりこころの診療所長。専門は、精神療法、芸術療法、精神病理学。日本精神神経学会理事、東京都精神保健福祉協議会理事長、日本臨床死生学会長(現理事長)、日本芸術療法学会長、日本自殺予防学会長、日本ストレス学会長、日本精神科診断学会長などを歴任。日本における精神療法や芸術療法の第一人者で、俳句を取り入れた治療や芭蕉と曽良の研究、「日本人と自死」をテーマにした研究などでもご高名です。
主な編著書:『ホモ・ロクェンスの病―言葉の処方と精神医学』『俳句・連句療法』『Arts Therapy』『芸術療法実践講座1~6巻』『芸術療法 理論編・実践編』『芸術療法』『カウンセリングと心理療法:その微妙な関係』『臨床実践のためのスピリチュアルセラピー』『神経・精神疾患診療マニュアル』『精神科ポケット辞典 』『臨床研究医のための精神療法』(DVD)『精神科専門医のための精神療法』(DVD)など多数。
〈講師より〉
日本では2006年から国を挙げて自殺予防が講じられるようになっているが、自殺者の9割が精神疾患、とりわけうつ病が多いということから、うつ病の早期発見・治療による予防対策がとられている。うつ病患者は増え続けており、その最悪の転帰は自殺であるから、これは理にかなったことといえよう。しかし、これだけで自殺を減少させることはどこまで可能であろうか。近年の自治体や関連団体の努力に加え、気軽に受診できる精神科診療所の増加、うつ病治療の進展、うつ病の知識と理解の普及、企業のメンタルヘルス対策の広がりなどによってかなり減少していくはずである。だが、この3年間は減少傾向に転じているとはいえ、依然として日本人の自殺率は高い。すると、次のような疑問がでてこよう。①うつ病で医療の網にかからない人が自殺していくのか? ②受診に至っても治療がきちんとなされていないのか? ③治療効果をすり抜けてしまうような生物学的要因があるのか? ④経済的背景などの社会的要因が大きいのか? ⑤日本ではうつ病であれ健常であれ、死へと誘うような文化的背景(死生観)があるのか?演者は、日常臨床場面では、うつ病や希死念慮もった患者の「死生観」をも視野に入れた、一歩踏み込んだ自殺予防対策が必要であると考えている。すなわち、上記⑤を考慮した臨床である。これには患者の年代や病前性格、伝統的な死生観とその変容が関係してこよう。そこで本講演では(演者の年齢から若者文化については語れない限界があるが)、「うつ病の自殺や希死念慮に日本人の心性=死生観がどのように関わっているのか? そこに自殺予防のヒントになるものは見いだせないだろうか?」ということについて、次のような例と精神科日常臨床でみられるケースを織り交ぜながら述べてみたい――『日本書紀』などに残された古代の自死のありよう、『一言芳談』や『方丈記』に見られる無常観と死生観、自死に見られる伝統的な自責感、西行法師の断食往生、乃木大将の自刃、小泉八雲が驚いた日本人の死生観、明治の尋常小学唱歌・読本『浦島太郎』に謳われた現世と常世のありよう、柳田國男のあの世観、深沢七郎『楢山節考』や永井龍男『青梅雨』などに描かれた自死と死生観、特攻隊員の自死に向かう心性、被爆者の原爆についての想い、「(死んでも)仕方ない」という日本人の別れの有様(竹内整一)、小津安二郎の『東京物語』、自殺率大幅減少時期に坂本九の『上を向いて歩こう』や植木等の『スーダラ節』の歌が大流行した意味、円谷幸吉氏の自死と遺書、三島由紀夫・川端康成・江藤淳の自殺、日本と対比した欧米におけるうつ病と自殺など。
NPO法人グリーフケア・サポートプラザ 公式ウェブサイト
にほんブログ村